○月×日
今日、上官のガトー少佐がGP-2を奪って帰ってきた。
人がさんざん苦労して調達してきた連邦仕官の制服に
『これは階級が低いじゃないか。まあ服装で私の格が下がるわけではないがな。次からはちゃんと少佐のヤツを用意しておいてくれよ』
とかケチを付けた時はぶん殴ってやろうかと思ったが、首尾よく任務を成功させて来たからよしとしよう。時代劇フェチでナルシストでバカだけど腕だけは確かなんだよな、あの人は。
○月×日
ガトー少佐がバカに上機嫌なので聞いてみたら、なんでも連邦の教科書に自分の名前と通り名が載っていたらしい。それは凄い、喜ぶのも無理はない。
それはいいのだが、俺が冗談で、
『凄いじゃないですか少佐、有名人の仲間入りですね。ひょっとしたら1年戦争の英雄のアムロ・レイみたいに街中でサインを求められるかもしれませんよ』
といったらヤツはうのみにしてサインの練習を始めやがった。真性のバカだ。
しかも時代劇フェチのガトーはとうの昔に使われなくなった日本の漢字とかいう文字で書いていやがる。よく知りもしないくせに。
しかもさんざん『結構です』と俺が遠慮したにも関わらずガトーのヤツは俺のノーマルスーツと愛機ゲルググにむりやりサインを書きやがった。
しかもその内容が酷い。
『楚露門之悪夢 穴鈴我闘 夜露死苦』
これじゃあ20世紀の日本の暴走族だ。しかも俺が消そうとしたら烈火の如く怒りやがるしどうしようもない。まったく
後で聞いた話だがガトーのヤツは行く先々でサインを書きまくって右腕の腱がつったらしい。ザマミロ。
○月×日
今日はハゲのデラーズ准将とガトー少佐という馬鹿時代劇コンビのお供で、共同作戦をする事になるシーマ艦にやってきた。
長年のデーラズフリート暮らしで変態プレーには免疫のついた俺だったが、ここには度肝を抜かれた。なにしろ内装や兵士の制服がまるっきり海賊のものだったのだ。おまけに艦長のシーマはSMの女王様みたいな服を着ている。こんな連中と共同作戦をやって大丈夫だろうか。
あまりの怪しさにガトー少佐に進言しようと思ったら奴らは奴らでトボけた会話をしてやがった。
『よろしいのですか閣下、あのシーマと申す者、なにやら怪しげな雰囲気が……』
『言うなガトー、今は少しでも戦力が必要なのだ』
こんだけあからさまに怪しいのに『なにやら』じゃねーだろ。お前もお前でちったあ疑えよこのハゲ!
結局、シーマとの話し合いはまとまって共同作戦は組まれる事になった。めちゃくちゃ嫌な予感はするものの、下っ端の俺には反対する権利はない。大丈夫かなあ
後に、やっぱりシーマに裏切られてデラーズのハゲは憤死する事になるのだが、自業自得なのでどうでもいいや。
○月×日
今日、デラーズのハゲ……もとい閣下の部屋からなにやら物音がするので聞き耳を立ててみた。そしたらガトーのバカと一緒に旧世紀の戦争映画を見ているようだ。しかも内容はよりによって日本視点でみた太平洋戦争ものだった。
ガトーもハゲ閣下もえらく感銘を受けているようですすり泣く音が聞こえてくる。
俺は猛烈に嫌な予感がした。まさかこれに影響されて『神風アタック』とかいう作戦を思いつかないだろうなぁ……。まさかな。
後に発表された無謀すぎる作戦により、俺の嫌な予感は思いっきり現実のものになってしまうのだが、それはまた別の話。
○月×日
今日は星の屑作戦の前哨戦。コンペイトウ攻撃だ。
それはいいのだがまたしてもガトーの馬鹿がやっちまいやがった。
あれほど隠密行動である事を意識して下さいと口をすっぱくしていったにも関わらず、いざ敵陣に突っ込むって時に敵のど真ん中に向かって照明弾をぶっ放しやがった。あんたは元こう(漢字が見つかりませんでした)以前の日本の武士か、『やあやあ我こそは』なんて名乗りをあげとる場合かよ!
当然退去して押し寄せる敵MS軍。この作戦の為に命がけで陽動をやっている仲間の努力はこの瞬間に水の泡だし、俺達突入部隊の命も風前の灯火だ。
こうなりゃヤケだといわんばかりにガトーのそばについて特攻をかける俺。今更死ぬのは怖くないぜ
そしたらなんと敵方位網を突破する事ができた、奇跡だ。可哀想な事に俺とガトー以外の味方は皆撃墜されたようだが。まあ仕方がない、とっとと核をぶち込んでズラかるとしよう。
そしたら今度はガトーの馬鹿はとっととアトミックバズーカを打ちこめばいいのに
『待ちに待った刻が来たのだ! 多くの英霊達が……(中略) 私は帰って来た!』
とかいう時代劇チックな長ったらしい前口上の後に打ちこみやがった。いいかげんにしろ!
なんとか核弾頭を打ちこんで、連邦の艦隊に致命的な損害を与える事には成功したものの、連邦の援軍に追いつかれてしまった。絶対さっきの前口上のせいだ。
しかし連邦のガンダムがやたらとガトーのGP−2にこだわって俺をノーマークにしてくれた為、その隙に俺だけはズラかることに成功した。ガトーの馬鹿はあれでもMSの操縦にかけてはものすごいので一対一なら遅れをとる事はないだろうから、ほっといても大丈夫だろう。
だが、珍しく俺の予想は外れた。ガトーはなんとか帰還してきたものの、GP-2は致命的な損傷を負っていて、もう廃棄するしかなくなっていた。珍しい事もあるものだ。
そんなに敵が手ごわかったのですかと尋ねてみたら、確かに敵も手ごわかったのだが、それ以上にサインの書きすぎで痛めた右腕が言う事を聞いてくれなかったのだ、とか言いやがった。いいかげんにしろ。
○月×日
今日は星の屑の最終作戦だ。やっぱりというか予想どうりというか、シーマの奴に裏切られてデラーズのハゲは憤死、作戦もボロボロになって絶体絶命だ。
そしてこれまた予想どうりだったのだが、ガトーが敵旗艦に向けて神風アタックをかましやがった。ここまで予想どうりだとむしろ気持ちがいい。
次々と落とされていく仲間達。だが俺だけは違った。ある程度この展開を予想していた俺はガトーが大暴れして注目を集めている隙に上手い事戦線離脱する事に成功した。ひょっとしたら俺はデラーズ側唯一の生き残りになるかもしれないな。
こうして、デラーズ紛争は終わった。結局戦争のむなしさを知らしめただけだったな。人はなんとおろかな生き物なのだろうか、特にガトーとデラーズ。
○月×日
今日めちゃくちゃラッキーな事が起きた。たまたま流れ着いたコロニーで、タイガーバームガーデンもどきをやっている大金持ちのマニアが、俺のMSとノーマルスーツを高値で買い取ってくれると言うのだ。なんでもあのアナベル・ガトーのサイン入りなので超レア即ゲットだぜ、とかいっていた。ガトーのやつにはさんざん辛酸を舐めさせられたが、最後の最後でこんな幸運を呼びこんでくれるとは。ありがとうガトー少佐、俺は一生あなたの事を忘れないだろう、たぶん……。