●月×日。今日、この間転校してきた岬がまた転校して行くという。はっきりいってうちのチームの他の10人よりも役に立つ為、岬がいなくなるのは死ぬほど悲しい……おっと、うちはチームワークが売りだからこんな事はおおっぴらには言えないが。しかしほんとに岬はいいやつだった。チャンスにノーマークでも自分で打たずに俺にパスを回してくれるし、俺より実力があるのに決して俺より目立とうとしない、落ち込んだら慰めてくれるなどと、女だったら絶対嫁にするぜ。そんな事を考えていると無性に別れが惜しくなった為、サッカーボールに『全日本でもコンビを組もう』と書いて岬に渡すことにした。あっ、もう岬を乗せたバスが出ている。俺はシュートで岬にボールを渡すことにした、しかしうっかり低い弾道で蹴ってしまった為バスの下を通りすぎて岬には届かなかった。畜生。しかしこのシュートは使えそうだ。いずれ完成させて、友情シュートと名付けよう。
◎月×日。小学生サッカー大会決勝トーナメントに進む。しかしショッキングなことがあった。岬が翼とかいういかにも頭の悪そうな奴とコンビを組んでいたのだ。しかも10年来のコンビのように息がピッタリだ。畜生、俺とのコンビは遊びだったのか、ひそかに練習していた友情シュートもこれで終わりだ。そんな事を考えていると、日向とか言う奴が因縁をつけてきて思いっきりぶん殴られた。しかも殴り返そうとすると翼が『サッカーで決着をつけよう』とか言って仲裁しやがった。畜生、俺は殴られ損じゃないか。今日の痛みは絶対忘れない。いずれ必ず復讐してやる。そう、6年後ぐらいに。
○月×日。対明和FC戦。あの日向との因縁の対決、いきなり反則タックルを食らってフリーキックのチャンスを得るが、変わりに足をケガしてしまう。畜生、あんな凶悪な反則をしてレッドどころかイエローカードも出ないなんて。俺は10メートルも吹っ飛ばされたんだぞ。きっと審判の贔屓だと思ったら、日向の奴がいまにも審判を惨殺しそうなほどの殺気を見せながら睨んでいた。どうやら審判も日向にビビっているらしい。畜生、あんな奴には絶対負けられん。そして同点で迎えた試合終了間際、PKという絶対的なチャンスを得る。前々から練習していた友情……もとい北国シュートのお披露目にはもってこいだ。ここで豪快にゴールを決めて『見たか! これが俺の北国シュートだ!』と叫ぶとするか。うむ、我ながらカッコイイ。そしてシュートを放つも直前に交代した若…なんとかいうキーパーにあっさりキャッチされ、そこからのカウンターで負けてしまった。畜生、俺の実力では勝ってたのに、他のチームメイトの差で負けた。これだからヘタレな味方は嫌いなんだ。このせいで俺の北国シュートのデビューは3年遅れる事になった。
◎月×日。今日、正式にユニフォームが配られた。好きな番号をとっていいという事なので、まよわず10番に手を伸ばしたら『バッカ野郎、10番は翼に決まってんじゃねえか!』とののしられた。よりによって石崎に。そしたらみんな『そうだよな、10番はやっぱ翼だよな』と言い出したので、10番を取りづらい雰囲気になった。畜生、なんでここにいないやつに気を使わなければならないんだ? 石崎め、この借りは必ず返す。
○月×日、今日監督にDFへのコンバートを言い渡された。あんまり乗り気ではなかったが石崎への復讐のため引き受けた。ヘッ、これで石崎はスタメン落ちだぜ……と思っていたら何故かスタメン落ちしたのは高杉だった。高杉は平静を装っていたが、奴の糸目は涙であふれかえっていた。ちょっと悪いことをしたなと思った。
○月×日。パリの宿舎にて。日向にお前のシュート名はなんていうんだと聞かれ、北国シュートだと言ったら大爆笑された。畜生、やっぱりこいつはいつかぶん殴る、そう、3年後ぐらいに。しかし冷静に考えると外人には北国っていってもわからないだろうから、しかたなく今だけはイーグルショットにしておく。
○月×日。ユース優勝祝賀会にて。俺の大活躍などがあり、Jrユースで優勝できた。さすがに浮かれた俺はつい持ちネタの北斗の拳のバットのモノマネとちびまるこちゃんのお母さんのモノマネをやった。そこそこうけた。しかしそこに対抗意識を燃やした日向が乱入、若島津と組んでブライト×カミーユのモノマネを始めやがった。さらに若林まで乱入して、紫龍×氷河のモノマネまで始まり、これが大好評、みんな俺のネタなんか綺麗に忘れやがった。畜生、俺はお笑いでまで日向に勝てないのか、この借りはかならず……そう3年後ぐらいに。
○月×日。優勝祝賀会の後、眠れなかったのでパリの街をジョギングした。すると、なにやらカーン、カーンという音がするので音のする方に行ってみた。そしたら高杉が血の涙を流しながら木に向かってワラ人形を打ちつけていた。どうりでここんところ調子が悪いと思ったらこいつのせいか……。そういえば高杉は出番なかったな。
KOされた石崎のかわりも井沢だったし。だからって俺に逆恨みはないだろうに。俺は何も見なかった事にして宿舎に引き上げた。その後、大会が終わって家に戻ると、カミソリレターと不幸の手紙が山ほど届いていた。消印は全部南葛市だった。あいつの仕業か……
○月×日。今日、TVで翼の試合を見ていたらサンターナとかいう奴がゴールデンイーグルショットなるシュートを使いやがった。畜生、俺のシュートのパクリだ。しかし衛星放送で世界的に宣伝されてしまったから俺のイーグルショットの方がパクリに見られてしまう。鬱だ。しかたないから新しいシュートでも考えよう。そうだな、次のシュートは『北国のど根性シュート』なんてのはどうだろう。うむ、我ながらいいネーミングだ。早速特訓開始だ、まずはボールを雪でコーティングして通常の3倍の重さにして……
○月×日。対RJ7後。賀茂の口から入れ替わりで全日本を追い出される奴の名が言い渡された。他の6人はともかく日向まで入っていた。つまり俺には弱点はなく、日向は弱点だらけな訳だ。俺はやっと日向の上に立った、こんなに嬉しいことはない。しかも居残り組ではどう見ても俺が実力No1、つまりキャプテンは俺だ。キャプテン光、なんていい響きだ。しかし日向の奴がダダをこねて合宿から去ろうとしないので、一発ぶん殴って追い出してやった。ついにあの時の借りを返せた。わが世の春だ!
○月×日。キャプテン生活3日目、俺の卓越したリーダーシップにより、誰もが俺をキャプテンとして慕ってくれている。特に日向の愛弟子のタケシは『やっぱりキャプテンは松山さんしかいませんよ、一生ついていきます』などと言ってくれた、可愛い奴だ。しかし賀茂の特訓はめちゃくちゃだ、これでは予選までにみんな潰されてしまうぞ。
○月×日。ついにみんなぶっ倒れた。俺もキャプテンとしてのハードワークもあったのでもう限界だ。そこに今ごろ翼の奴が来やがった。ひとりだけノホホンとしていたのでキャプテンを翼に押しつけてやった。これでラクができる。三日後、タケシが翼に『やっぱりキャプテンは翼さんしかいませんよ、一生ついていきます』といっていた。なんて変わり身の早い奴だ。おそらく日向にも同じ事を言っていたんだろう。後でトイレに連れこんで説教してやる。
○月×日。対グアム戦、俺がナイスプレイで敵のシュートをブロックしたのに森崎の奴がこぼれダマをキャッチできずにゴールされて俺の自殺点にされてしまった。畜生、森崎といい小田といい、だから役に立たない味方は嫌いなんだ。しかしいい機会でもある、汚名返上と称してオーバーラップして派手に新必殺シュートの『北国のド根性シュート』を決めてくれば俺の人気もうなぎ上りだ。などと思っていたら早速チャンスがまわってきた。ここで俺は『ド根性―――!』と叫びながら豪快にゴールを決めてきた、最高だ。ところがアナウンサーの奴は『松山君のイーグルショットが突き刺さった―』といいやがった。違うぞ! と言おうとしたが、みんなが『ナイス、さすがはイーグルショット』『松山のイーグルショットはやっぱ最高だぜ』と喜んでいたので言い出せなかった。結局『北国のど根性シュート』はそのままイーグルショットとして運用されるようになった、鬱だ。日向のシュートは全然変わってなくてもネオタイガーって言われたのに。試合後はらいせに森崎のグローブに画鋲を仕込んでやった。
○月×日。対タイ戦。森崎の調子がやたら悪い。まだ前半だというのに3点もとられた。まさかこないだグローブに画鋲を仕込んだせいなのか? それはいいが、何故か観客が『早田、次藤がいないと駄目なのか』とか野次を飛ばしてきた。まさか俺のディフェンスが悪いと思ってるんじゃネエだろうな。森崎がザルなんだぞ畜生。とか思ってたらまた点取られやがった、これで4点目、この調子じゃ10点ぐらい取られるな。負け決定。あーあ賀茂のアホがあいつら追放するから……
○月×日、明日はいよいよあのレヴィンのいるスェーデンのとの試合だ。ヘタレのヘルナンデス程度を破壊した火野のトルネードですら死ぬほどいたかったのに、若林とミューラー二人の鉄人を破壊したレヴィンのレヴィンシュートはどんな破壊力なんだろうかと思うと恐くてたまらない。そんな事を考えていたら、なんとフィアンセの美子が交通事故にあったという知らせが飛び込んできた。チャンスだ、俺はこれを理由に試合をボイコットすることにした。どうせドイツに5−2で勝つようなチームに岬、若林抜きで勝てるわけないし、命あってのものだねだからな。
試合当日、病室で美子とのんびり観戦をする。どうせなら10−0ぐらいのボロ負けしてくれたら俺の存在価値があがるだろうな、とか思ってみていたらなんと、ケガから復活した若林と赤井とか言う新顔の活躍で5分に渡り合っている。マズイ、万一俺ぬきで勝たれでもしたら松山代表不要論が巻き起こってしまう。そう思った俺は美子を残して大急ぎで試合場に向かった。結果、俺の見事な戦術眼でなんとか勝利をモノにできた。ついでに俺の株も上がるという理想的な展開だった。試合後、赤井がレヴィンシュートで全身の骨をバラバラにされたという話を聞いてゾッとした。もし最初から出場してたのが赤井でなく俺だったら……。ありがとう赤井、お前の死は決して無駄にはしない。
●月×日。対オランダ戦。スェーデン戦での疲れのせいかみんな動きが鈍い。ここはひとつ一人だけ元気な俺が踏ん張るしかない。オランダの怒涛の攻撃を俺のイーグルタックル、イーグルパスカット、果てはイーグル顔面まで使って防ぐ。まさに獅子奮迅の大活躍だ。しかし攻撃陣がふがいない。これだけ防いでやってるのに一点も取ってこない。とくに日向はなにやってんだ、このままじゃ2試合連続ノーゴールだぞあいつ。しかたないので俺がオーバーラップしてイーグルショット(ほんとは北国のど根性シュートだが)を放つ。惜しくも防がれたがこぼれダマを翼がスカイダイブで押しこんで決勝ゴールを決めた。やった、この試合で一番活躍したのは間違いなく俺だ。明日から俺の人気はうなぎ上りだ。そう思っていたら、なんとこの試合は同時間に日本シリーズ最終戦がやっていたせいで報道陣が全部そっちに流れた為
TVでは流されず、新聞で報道されるのみだった。しかも新聞ではノーゴールで防ぎきった若林と決勝点を上げた翼ばかり褒め称えられていた。畜生、一番活躍したのは俺なんだぞ。なんで俺が活躍した時に限ってTV中継されないんだ。これで俺は翌日のブラジル戦のやる気がなくなった。